数学の答案の書き方
そんなものはありません
多少数式が混じっているとはいえ,数学の答案を作成することは日本語で作文することに他なりません。国語や社会の記述問題,あるいは小論文で指摘される「文章作成」に関する注意事項は,数学の答案でもそっくりそのままあてはまることは当たり前です。各文で主語と述語を照応させたり,適切に句読点を付したりといったことは数学の答案でも呼吸のごとく行わなければならないのです。
ところが,実際にはそれができない受験生がほとんどです。つまり,他の科目ではちゃんとした文章が書けるのに数学では書いてくれない。この原因は,数学の答案はたんなる日本語の作文にすぎないという認識が生徒に欠けていることにあると思います。
受験生は,数学の答案の模範を問題集や模擬試験の解答例に取り,それを真似て「答案の書き方」を「学習」するのではないでしょうか。しかし,出版物に書かれている解答例はひとつの表現方法にすぎません。その書き方を真似る必要はどこにもないのです。数学の答案は,数学的に正しい議論が日本語として成立した文章で記述されていさえすれば何でもよく,それ以上の制約は課されていない。したがって表現方法は無数にあってしかるべきであり,その意味で自由であるとも言えます。
「数学的に正しい議論を,日本語として成立した文章で記述する」。当然のことのように思うでしょう。そう思ったあなたの感性は正しく,この文には当然のことしか書かれていません。だから,みなさんに新たに周知すべき「数学の答案の書き方」などないのです。
いくつかの例
とはいっても,このまま記事を終わるのでは不親切の感が否めません。いくつか例を挙げておきます。いずれの例も,日本語作文レベルの誤りです。
- 「求める直線は である」という文。これは日本語として成立していません。 は直線ではなく,直線を表す式でしょう。「求める直線は である」や「求める直線の式は である」,「求める直線は で表される」などと,正しい日本語で書くべきです。
- 「求める条件は である」という文。これも,伝えたいことを表現できていません。求める条件は あるいは であって, という事実ではないはずです。「求める条件は すなわち である」と修正するのがよいでしょう。